ここはドイツとスイスの国境のすぐ手前である。国境のすぐ向こう、スイス側にはバーゼルという、交通の要所として有名な都市がある。本日の予定は、ここレーラッハを起点に、スイス、イタリア北部を通り抜け、フランスへ入り、地中海沿岸をモナコまで走ってそこで宿泊するというものである。
… というわけで早速ドイツとスイスの国境を越えて、更に南へと向かう。
やがてイタリア国境へと到着した。
さて以下は、以前に同じルートでこのあたりをドライブした、別の旅のハナシなのだが …
そして、それはまだ欧州各国がユーロという共通通貨を導入する前の話である。
この日の目的地はフランス圏のモナコである。イタリア、スイスは、クルマでさぁーっと通り抜けるだけなのである。昼食をスイスで済ませるとすると、イタリアではあまりお金を使う機会はないだろう。つまりイタリアに入国する際のイタリア・リラへの両替はあまり必要なさそうである。それでイタリア・リラは、休憩時間にコーヒーを飲むくらいの金額があれば良いだろう … と思ったのであった。
というわけでコーヒー、プラス軽食代程度の金額をイタリアリラに両替してイタリアのアウトストラーダに乗り込んだ。それで順調にとばして走っていると、はるか向こうに見えるのは …
あやや、なんと高速道路の料金所 ! ではないか。
しまった。完全にそんなものは念頭になかった。
ドイツのアウトバーンはタダである。料金は一切必要ない。当然料金所はない。スイスには高速道路使用税というシステムがあるので無料とはいえないと思うが、いずれにしても料金所はない。
というわけで、イタリアのアウトストラーダには 「料金所」 というものがあることということをすっかり忘れていた。当時はイタリア通貨はリラである。手元のわずかなイタリア・リラで足りるかどうか不明である。が、ここはアウトストラーダだ。カネが足りようが足りまいが数百メートル向こうの料金所を前にして引き返すすべはもはやないのであった。
料金所へと到着。幸いなことに、両替したばかりのイタリア・リラで何とか足りた。しかし、350km 先のフランス国境までこの金額でアウトストラーダを走らせてもらえるとはとても思えない。
不安を胸に更に走ると … あった。次なる料金所が !
もはや手持ちのイタリア・リラは、ほぼない。万事休すだ。財布に入っているのはドイツ・マルクばかりである。仕方なく最終手段として、財布に入っていたドイツ・マルク札を取り出し 「済みませんが … これで何とか … 」 と言いつつ差し出す。すると意外にも料金所の係員、軽く 「OK、OK」 と言ってイタリア・リラに換算してくれた。
何だ、そういうシステムなのであったか。
しかし、このハナシには続きがある。その後、快調にイタリアを通過してフランスへ向かはずだったのだが、途中で大渋滞に巻き込まれてしまったのである。そのため今度は、ガソリンが心許なくなってきてしまったのだ。
やむを得ず、アウトストラーダのサービスエリアのスタンドに飛び込む。もとより現金の持ち合わせはないので、手持ちのクレジットカードを見せてそれで支払いができるか聞いてみるが 「うちはそういうのはダメ ! 」 という冷たい態度である。ユーロチェックという小切手を持っていたのでそれも見せたが相手にしてくれない。
万策つき、立ち去るしかないか … と思いかけたが、ふと気づいて財布に入っていた 100 ドイツマルクを取り出してみる。すると、それを見せるやいなや、ガソリンスタンドのおっさんの態度が変わり、破顔一笑 「OK、OK」 と言いつつイタリア・リラに換算してくれた。
何だそういうシステムなのであったか …
まあ他の国のものであれ現金ならば確か、ということなのだろうと一応納得する。
しかし同じカネとはいえ、ドイツ国内のお店でイタリア人観光客がイタリア・リラを差し出したとして、それを見たドイツ人店員が、破顔一笑 「OK、OK」 というシーンはどうもあまりにも想像しにくいのであるが。
しかし、これも昔の話。今はドイツもイタリアも通貨はユーロである。
上にも書いた通りこれはその前にこのルートを使った旅のハナシであり、時間を元に戻すと、今回は渋滞もなく、まだ明るい時間帯にすんなりとモナコへと到着したのである。フランスとモナコの国境地点で、まずは記念撮影。